【すずめの戸締まり考察】舞台と2人の旅について
新海誠監督最新作「すずめの戸締まり」、みなさんはご覧になられましたか?
私は昨日見に行き、その映像美に圧倒されましたが、
見ている中でいろいろと気づいたこともあるので、
今回は真剣に考察しようと思います。
よって今回、かなり真面目な内容になりました。
長いので目次をどうぞ
〇舞台考察
まず気になったのはその舞台。
作中で愛媛・神戸・東京の地名は明記されていますが、宮崎では架空の地名が使用されています。
ここが曖昧なままではストーリーの考察をするのは難しいと考え、
まずは舞台を特定することとします。
九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、
「扉を探してるんだ」という旅の青年・草太に出会う。
彼の後を追って迷い込んだ山中の廃墟で見つけたのは、
ぽつんとたたずむ古ぼけた扉。
なにかに引き寄せられるように、すずめは扉に手を伸ばすが…。
上記は公式サイトのSTORYから引っ張ってきました。
九州の静かな町、というのはいたるところにありますが、
前情報から宮崎県であるということは確定しています。
では宮崎のどこなのか。
確定的事項~宮崎県南部~
まず注目すべきは高校への通学シーン。
すずめは一分一秒も惜しい朝の時間、情けないことに踏切で足止めを食らってしまいます。
同級生らしき人物に挨拶されるそのシーンで目の前を通過していった車両は、
白色塗装に青いラインの一両編成です。
上記は日南線の車両の画像です。
全く同じですね。
よってすずめは日南線沿いに住んでいる。
この時点で宮崎市以南に住んでいることが確定します。
劇中で宮崎県南部と名指しされるシーンがあることも補強材料です。
県南部は確定しました。
ではどこか
ここからはより詳しく考えていきます。
一旦映像に移りましょう。
すずめは毎朝高台にある自宅から自転車を危険運転で駆け下り登校しています。
上記は物語の端緒を開く重要なシーンですが、右部に漁港が見えます。
立派な堤防です。規模的に第2~第3種くらいの規模はありそうです。
この時点で私は油津か南郷(大堂津)ではないかと考えたところですが、
上記画像にはもう一点注目すべき箇所があります。
遠方左に開発された港が見えますね。
うっすらですが港湾クレーンの存在が確認できます。形状からジブクレーンでしょうか。
日南線沿いで港湾クレーンが存在している港はおそらく油津のみです。
よってすずめの町は油津。
多分天福球場の裏の山のどっかに住んでいて毎朝チャリで山から下って異常な遠回りの末、日南学園に通っている。Q.E.D.
説の崩壊
とか言っていたらスマートフォンで地図を確認するシーンで自宅のピンが映りました。
映像は一瞬でしたが、下記画像の赤で印をつけた範囲であったと記憶しています。
ここに油津説は音を立てて崩れ去りました。
なぜなら油津は地図上「日南」と記載がある地点からさらに下に当たるからです。
やたらと内陸なのがよくわかりませんが、立地からすると青島近辺でしょうか。
なるほど、今作の舞台は青島です。
がしかし、映り込むフェリー。
彼女は地元の港から八幡浜行きのフェリーに乗り込み旅を開始します。
この時点で油津でも南郷でも青島でもないことが確定。
なぜなら上記3港は定期航路がありません。
またもっと言うなれば宮崎県から八幡浜へ向かう航路はありません。
ここに至り多くの人は、もしかして本当の舞台は宮崎ではないのか?と思ったはずです。
果たして上陸した地は本当に八幡浜なのか?
すずめは本当はどこに向かったのか?
すずめは本当はどこに住んでいたのか?
ここに本作のストーリーを解く最大のカギがありました。
すずめのご自宅
この画像をご覧ください。
地図上に青色点線で航路が表されています。
宮崎県南部エリアから航路は伸びていません。
対して鹿児島県はいたるところに青色点線が見て取れます。
そう、今作の本当の舞台は鹿児島県でした。
さてすずめの町には鉄道が走っているというのは先ほど述べた通りですが、
この条件から考えると鹿児島県東側の大隅半島には鉄道が存在しない*1ため、
西側、薩摩半島がその舞台と考えるのが自然。
さらに航路が集中している鹿児島市は劇中の田舎の描写からはほど遠く、導き出される答えは一つ。
すずめが育ったのは鹿児島県指宿市だったのです。
〇ストーリー解説:すずめの戸締まり
☆2人の出会い
岩戸鈴芽(すずめ)は指宿市開聞(かいもん)に住む17歳の少女。
毎朝開聞岳山頂にある自宅から自転車に跨っては暴走的なスピードで麓へ駆け下り、高校へ通う毎日を送っています。
ある日、そんな開聞に鉄道オタクの宗像草太が降り立ちました。
すずめの家がある開聞岳の近くには、JR日本最南端の駅である西大山駅が存在しています。
草太は鉄道オタクの風上にも置けない男だったため、鉄道を用いずヒッチハイクと徒歩で西大山駅を目指すという暴挙を犯していたところ道に迷い、うっかり開聞岳を登山していた時、暴走気味に山を下ってきたすずめと運命的な出会いを果たします。
彼は鉄道オタクだけでなく廃墟オタクでもあったため、
地元民のすずめに対し、いい感じの廃墟ない?という質問を投げかけます。
開聞は基本的に廃墟しか存在しないため逆に難題でしたが、適当な方向を示し二人の出会いはいったん終了します。
しかしすずめは草太のことがなんだか気になり、再び草太を探しに向かうことで物語が動き始めます。
確かに草太は鉄道オタクにしてはありえないほどの美形でしたが、本当に一目惚れだったのでしょうか。
普通は女子高生が鉄道オタクに行為を抱くことなどまずあり得ません。
ではなぜすずめは草太に惹かれてしまったのか。
それは彼が鉄道オタク兼廃墟オタク兼催眠術師だったからに他ありません。
彼は催眠術で、怪異を鎮める仕事に従事していました。
これを応用し、草太はすずめに対し自分に惚れさせる催眠術、並びに鉄道オタクに対して嫌悪感を抱かないようにする催眠術をかけていたのです。
これにより彼女は心から草太に対し好意を抱くことができたのです。
舞台が指宿であることで、本作のキーであるミミズの正体も明らかになります。
そう、ミミズは指宿市の池田湖に棲まう怪獣、イッシーでした。
草太はイッシーが暴れ出したのを見て催眠術を賭けに行きますが、イッシーは他の怪異と比べ少し術が効きづらい体質でした。
一度は鎮めることに失敗、イッシーの手によりすずめの住む町が強い地震に見舞われますが、すずめに手伝ってもらいなんとか催眠術で眠らせることに成功します。
草太は一時すずめの家に身を寄せますが、
突如現れた鉄道オタクにヘイトをまき散らす不快な猫による「お前は邪魔」の一言により、椅子にその姿を変えられてしまいました。
すずめと草太は不快な猫を追って、共にフェリーへ乗り込みます。
その船こそが、山川港を発着するフェリーなんきゅうでした。
すずめは鉄道オタクと一緒に行動していることを必死に叔母さんに隠しつつ、
☆信仰の果てに
根占は何もない町ですが、2人は転落積載物等危険防止措置義務違反を犯した千果と名乗る少女と出会います。
あのシーン、スポンサーに配慮した結果みかんのように見えますが、
実は根占近郊の名産物の代名詞、辺塚だいだいなのは小ネタです。
田舎特有の交通事情により原付通学が認められている千果のカブに跨り、
2人は池田湖から這い出て錦江湾に現れたイッシーをある施設で迎え撃ち撃退します。
その施設とはどこか。
特定が難しいところですが、
千果の発した昔よく通っていた、とする言葉が大ヒントです。
南大隅町にある、よく通うことがある施設、
もうお分かりですね。
そう、涅槃城です。
彼女は昔涅槃城に足繁く通っていたのですが、行政をあげての観光地化に失敗した涅槃城に見切りをつけ、現在は佐多岬を目指し全国からやってくるライダーを相手に民宿を経営し生計を立てています。
劇中で千果がダンシってさー、ダンシがさー、と言っていたのは、
あれは男子ではなく、檀氏、すなわち檀家のことを指していました。
横暴な檀家に対し腹を立てていたことも、彼女が涅槃城に足を踏み入れなくなった一因です。
すずめと草太は根占での暮らしを満喫していたのですが、根占には鉄道がありません。
次第に鉄道オタクの草太は禁断症状から椅子としてはあり得ない動きを繰り返し奇異な目で見られるようになり、
すずめは、根占を去ることを決意します。
劇中で触れられていた通り大隅半島はバス路線も貧弱ですが、偶然通りがかった天文館*2のスナックで働くママの車に乗ることができ、2人はついに鹿児島市へ到着します。
☆教師による洗脳
すずめたちはママの家に身を寄せていたのですが、
イッシーが鹿児島市にも襲来したことを知ります。
実は度重なる桜島の爆発により被害を受けた鹿児島中央駅は移転、旧施設は放棄されていたのですが、すずめらは旧施設に残された観覧車を舞台に戦闘を繰り広げます。
戦闘中往時のライトアップに照らされた観覧車は、市民に驚きと感動を与えました。
イッシーを催眠術で見事撃退した後、2人は親切なママに見送られ、新幹線に乗り東京へ向かうこととなります。
が、すずめは鹿児島の片田舎で育った少女です。
すずめは九州が世界だと思っていました。
なぜなら高校の教師により、
そして九州大学こそが最強にして唯一無二の大学だと洗脳されていたからです。
九州大学がある福岡こそが、世界の中心だと信じるに至りました。
そう、すずめが東京だと思ってたどり着いた街、それは福岡市だったのです。
☆”首都”にてすずめは気づいた
草太は夢だった東京の鉄道を見られると思っていたのに、
福岡の天神駅と天神南駅のありえない乗り換えを見せつけられたショックから石のように硬直、何も話せなくなってしまいました。
草太の変わり果てた姿を見たすずめは、草太を苦しめている根源は鉄道趣味にあると見抜きます。
草太を鉄道と対極にある趣味に没頭させることこそが、正気を取り戻す手がかりになると考えたのです。
すずめは考え、考え、そして、故郷の、とある光景を思い出します。
車オタクの草太の友達と、イムズ*3で服を買うついでにすずめを探しに来た叔母の力を借り、すずめはたどり着きました。
広大な草原の果てに立つ、“扉”。
長渕剛、叫びの肖像。
☆決起集会、桜島
これこそがすずめの答えでした。
長渕にハマる男が鉄道に興味を示すはずがない。
草太さん、長渕を好きになって──
相変わらずショックで黙りこくっている草太を長渕剛叫びの肖像に突き刺すと、
あの桜島から、テッペンから、太陽が引きずりだされました。
瞬間、すずめは7万5000人の大歓声を聞きます。
2004年8月21日、長渕がここで行った伝説的なライブの景色。
この時イッシーが再び暴れ出しますが、長渕はCaptain of the Shipを20分に渡り歌い上げ、飽きたイッシーは再び池田湖の奥深くへ戻っていきました。
世界が救われたのもつかの間、
桜島特設会場にあふれる息の詰まるような熱気に呆気にとられつつ、
すずめの目に留まったのは、誰かを探して歩くある少女の姿でした。
「長渕は遅れてきたフォーク青年です!」
「長渕は髪が長くて、エメロンシャンプーを使っているんです!」
しかし誰にもすずめの声は届きません。
なぜなら観衆の目の前にいるのは肉体改造を行い、マッチョイズムに支配された長渕だからです。
私が探している長渕はもうこの世にいないのか・・・
少女があきらめかけたその時聞こえてきたのは、
優しいハーモニカの旋律と、それに連なる彼の声でした。
「俺のね、ファーストアルバムの中からちょっとやってみようかな。逆流って歌知ってる?知ってたら一緒に歌おう」
ギター一本で歌い出した彼は、間違いなくフォーク界のアイドル、長渕剛でした。
逆流を聞き涙を流す少女を見て、すずめは思い出しました。
これこそが長渕剛の真骨頂だ。
すずめは少女に近寄り、抱きしめ、耳元で語りかけます。
「JEEPくらいまではよかったよね」
この時長渕を完全に理解した草太は長渕のJEEPまでのアルバムを聞き込み見事復活。
深く頷くと、
その瞬間2人は現世に戻ります。
そこには夕日に照らされた長渕剛叫びの肖像がありました。
こうして世界は救われました。
救われたのは世界だけではありません。
草太は鉄道オタクを引退することができ、
すずめはフォーク期の長渕の良さを再度確認することができました。
すなわち、すずめの戸締まりは、すずめと草太の壮大な更生の物語だったのでした。
☆補足情報
劇中すずめがやたらと富士山にこだわっていたのは、
長渕剛富士山麓ALL NIGHT LIVE 2015に行けなかったことを心底後悔していたからに他ありません。
草太が最後みんなと車で帰宅するのではなく一人鉄道に乗ることをチョイスしたのは、彼の鉄道に対する未練の表れです。
またあの猫は、長渕剛叫びの肖像に住み着いている猫です。
猫は草太を助けるため、長渕剛叫びの肖像にすずめを導いていたのでした。
☆まとめ
- 舞台は鹿児島県指宿市。
- 鉄道オタク兼廃墟オタク兼催眠術師の宗像草太はJR日本最南端の駅である西大山駅に向かう途中岩戸すずめと出会い、催眠術で懐柔。
- ミミズの正体はイッシー。
- 鉄道オタクフォビアの猫により草太は椅子に変えられてしまう。
- すずめと草太はフェリーなんきゅうで根占に上陸、涅槃城でイッシーを一度撃退する。
- 鹿児島市に移動した2人は再度イッシーを撃退、首都福岡市へ向かう。
- 福岡で天神駅と天神南駅のありえない乗り換えを見せられた草太はショックから石のようになってしまう。
- 草太が苦しんでいる原因が鉄道趣味にあると見抜いたすずめは、彼を救うためその対極にある長渕のオタクにしようと考える。
- 長渕剛叫びの肖像に住み着く猫の導きにより長渕剛叫びの肖像にたどり着いたすずめは2004年のライブ会場でフォーク期の長渕を探して歩く少女と出会う。
- 逆流を聞いて答えを得た少女に対しすずめも長渕はJEEPくらいまでだと語る。この時草太復活。
- イッシーはCaptain of the Shipに耐えられず帰宅、世界は救われた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
この考察はあくまでも私の個人的な考えですが、おそらくかなり的を得ていると思います。
みなさんもぜひすずめの戸締まりを楽しんでください。