はがれる付箋

基本的にはがれないでほしい。

デジタルデトックスというほど大層な話ではないがそういう時間を過ごすのも大事かもね

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2021年8月7日、23時、三列縦隊。二輪車の列の中に私もいた。


京都舞鶴港発、北海道小樽港着のフェリーに乗り込む二輪車達の列である。


新日本海フェリー

それは過去存在した日本海フェリーが2つに分裂した際、ストロングスタイルの名の下に日本海を超高速スピードで縦横無尽に駆け回り、今日に至るまでキング・オブ・フェリーを標榜している団体だということはご存知の通りであるが、


キング・オブ・フェリーの中の、キング。

それがこの舞鶴小樽航路だ。


航海距離は堂々の1061km。

乗船時間も21時間と破格のスケールでお送りされる。


さて、みなさんは船旅の経験があるだろうか。

大原則として、航海中は基本的にインターネットが使えない。


これは当然、通信基地のある陸地から離れて船がどんぶらこどんぶらこしているからであるが、

(こと最近の船になると通信設備を積んでいて、航行中も船内WiFiでインターネットを使えることが多いが)


そのため暇潰しの手段をどれだけ取り揃えるか、これが大きな鍵となる。

今回私はiPadに大量のアニメを詰め込むことでこれを回避しようと考えた。

(家族やカップル、友人グループでの旅であれば会話に興じているとだいたい目的地に着いてたりすると思うので、普通の人は気にしなくてよい)


全40話分、1話25分で計算すると16時間分、睡眠・食事・風呂の時間を考慮するとあまりある計算だ。

これで勝てる!

 

乗船して身辺を整えていたら既に日を跨いでいた。

やることといったら、寝るだけである。

 

 


起床


8時頃起床、レストランで眠気覚ましに朝食をとりのんびりしたところで、早速オタクらしくアニメの鑑賞を始めるとしよう。


イヤホンが、ない。

 

そんな。

持ってくるのを忘れる本当に初歩的なミス。
試しにスピーカーの最小音量を出してみたが、存外音がでかい。

これはフェリーの相部屋では無理だ。


全ての計画が終わった。

 

そして虚無


結果、軍艦のそれより多少広い程度の個人スペースで朝から酒を飲む怪物が爆誕

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こんなはずじゃなかった。


船内放送で開催が宣言されたクロスワードパズルなどにも興じる。

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ふなたびさいこう!(そうだね)


見ると、意外と多くの人が参加していた。

船内の娯楽は貴重なのだ。


抽選で景品が当たるらしい。

当たるといいな。


最高の船旅の見つけ方

 

暇だ…


10時頃、逆航路を走る姉妹船とすれ違いが行われると船内放送がある。

娯楽に飢えていたので全力でデッキに出た。

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感動の一コマ。

みな娯楽に飢えているのだと思われる。


そして姉妹船殿が見えなくなると、また個人スペースにとぼとぼ戻り、低い天井を見上げる。

ここまで虚無な一日も珍しい。

そんなわけでメモ帳でこの記録を書き始める。


食事は娯楽だ


12時頃、昼食の船内放送が聞こえてきたので小躍りしながら食堂へ向かう。

 

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間違いない、食事は娯楽だ。

海軍が飯に力を入れる理由が分かった気がする。


まったく、全ては書籍を持ち込まなかった私のミスである。

こんなことなら積ん読状態で埃をかぶっているアラビア語の教材を持ってくるべきだった。

そうすればきっと小樽に上陸する頃には運河を歩くアラブの石油王達とウィットに富んだトークができたことだろう。


さらばスパイダーマン


個人スペースでゴロゴロしていると、14時からシアタールームのようなところで映画を流すとの案内がある。

今日のプログラムはスパイダーマンの続編的なやつだそうで、正直よく分からないが個人スペースで虚無になっているよりはマシだと思ったので行ってみようと思ったのも束の間、どうやらそのまま寝落ちしてしまったらしい。

起きた頃には14時を過ぎていた。せっかくの娯楽チャンスをみすみす逃してしまったわけだ。

映画なので確定で2時間は潰せただろうに…


虚無が限界を突破し、個人スペースとオープンデッキと売店とをグルグル回る周回を始める。

 

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景色はいい。

 

この頃になるとやりたい放題になってくる。

 

通路に置いてある謎の焼物の品評を勝手にしたり、

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階段の周囲をグルグルしたり。

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iPadに詰め込んだアニメを音声無しで見たりした。

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四畳半神話大系は名作だから音がなくても楽しめる…わけがない。


売店とうきび茶というものを買ってみたらえらく珍妙な味がした。

とうきびとはとうもろこしのことだったようだ。

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15時、クロスワードパズルの景品当選者が発表された。

ちょっと期待してたのだが、普通に外れていた。

でも構わない。

娯楽を提供してくれただけで十分なのだから。


幻覚、傷だらけの脚で陸地を見る


個人スペースにこもってこれからの人生について考えていたらうつらうつらしてしまっていたらしい。

ふとスマホを見ると、電波が入っている!

しかしツイッターを開くも更新がなされない。

おかしいなと思いロビーに出て再度スマホを確認すると圏外だった。

寝ぼけていたのだろうか。

時刻は16時過ぎだ。


さてここまで大事に温存していた入浴という娯楽を発動させる時が来た。

時間が余りまくっているので、売店でT字剃刀を買い、丁寧に脚の毛を剃った。

粗悪な2枚刃で脚の毛を剃るとどれだけ悲惨なことになるかが分かった。


風呂から上がりコインランドリーで洗濯をして、オープンデッキに出る。

風が気持ちいい。


嗚呼、陸が見える!

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けど電波は入らない。

 

食事は裏切らない


17時頃、揺れが出てきたので酔い止めを入れる。


それはそれとして腹は減るもので、夕飯の案内が聞こえると同時に両舷前進、食堂へ。

パブロフの犬状態。責任者はどこか。


ラーメンサラダ

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19時、神威岬沖で転針したあたりで電波が入るようになった。


約18時間ぶりに外界との連絡が取れるようになったが、

その間に届いた連絡といえばメーリングリストに基づくメールが3件と、

LINEは今朝の女児向けアニメの感想を送りつけてきた友人含め2件しか来てなかったのでもう一生隔絶されたままでもいいや。

 

そしてもはや第二の個人スペースとなったオープンデッキへ。

人が多かった。

クライマックス感がある。一抹の寂寥感も。

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日常へ

 

20時、乾かした洗濯物を回収し荷物を整えていたら、接岸が近いとのアナウンスが入った。

各々上陸の準備を整えている。

バイク組は最後の下船となるようで、もうしばらくこの船を家としていられるようだ。

電波も入るようになったことだし、これ以上の報告は特にない。

 

成就した恋ほど語るに値しないものはない